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反逆する風景
薬局の前で、背が低くデップリと肥えた老婆が、中学生くらいの少女に寄りかかるようにして抱きついていた。
少女は部活の休日練習帰りか、Tシャツにジャージという格好で、一般的に体育会系と呼ばれる人達の多くが愛用する、合皮のカバンを肩から掛けている。
せめてもの女の子らしさか色は真っ赤で、「adidas」の文字がプリントしてある。

はじめ、その物珍しい光景は、生き別れた家族の奇跡の再会を連想させたが、当の本人である中学生らしき少女の顔には感動というよりむしろ、困惑の色が浮かんでいる。
老婆は抱き締めていた腕をほどき、なにやら少女の眼前に掲げた。
それは、美容液だか化粧水だかクレンジングクリームだか、あるいは毛穴スッキリパックだか、はたまた全く違う種類のモノなのか、詳しくないのでちゃんと判別できなかったのだけれど、とてもハンディなサイズの、なんらかのコスメティック用品であるようだった。そう、ポケットに軽くスポッと入ってしまうような、安くて、使用限度回数も少なそうなヤツだ。

「万引き・・・?」

案の定、老婆は少女のカバンのストラップを片手でしっかりと掴み、もう片方の手を少女の背中に当て、押し込むようにして薬局店内へと連行していった。
その間、少女は何度か振り向き、ヒステリックな表情で老婆を睨みつけたが、老婆の背中を押す力は怯む気配なく、二人は店の奥へ奥へと進んでいく。
ボクはその時になって初めて、少女が美しい顔立ちをしていることに気付いた。

ボクのすぐ傍らで、その美しい少女と同じ格好をした(Tシャツ・ジャージ・真っ赤なアディダスのカバン)女の子が悲壮な顔で、しきりにケータイでメールを打ちはじめた。
部活仲間の非常事態に、誰か助けを求めているんだろうか。
残念ながらその女の子には、連行された少女のような美しさは感じられなかった。しかし、もしかしたらこの子も共犯かもしれないな、と思った。いや、そう悪い方に決めつけるのはよくないか。
彼女はきっと、この不測の出来事にどんな有効な言葉も失い、パニックに陥った可愛そうな子なのだ。

再び店内を見渡すと、老婆と美しい少女は店の奥にある従業員室へと入っていくところだった。
ボクの呼吸は荒くなる。
たとえばボクが、

「兄です。」

と名乗り出たら、何かが変わっていただろうか?
ボクの足は自然と、従業員室に向かって歩みをはじめる。
動悸が速まり、鼓動が高鳴る。
握り締めた手に汗がにじむ。
アタマのずっと深いところから、記憶の針がチクチクと脳を刺している。

ボクは従業員室の前に立ちドアに耳をあて、その向こうで行われてるヤリトリを聞き取ろうとする。
・・・何も聞こえなかった。薬局内がとても多くの客で賑わい、騒がしかったからだ。
皆、自分の買い物に夢中で、老婆や美しい少女のことなど気付きもしなかった。
ボクは不意に、乗客のいないバスのような寂しい気持ちになり、結局何もできないまま店の外へ出た。

ちょっとだけ離れたところで、先程の女の子が相変わらずケータイをいじくっている。
助けは呼べたのかな?その子に話し掛けようかとも思ったが、やめた。それじゃただの冷やかしだ。
ボクはタバコに火をつけ、薬局をあとにした。ボクはもともと駅に向かって歩いていたのだった。
煙を深く吸い込み、雑踏の中に溶け込んでいく。
| まん | まん日記 | 23:52 | comments(2) | trackbacks(0) |
MANくんの日記は日常生活が小説に溶け込んでしまったみたいだね。
風景を反逆してやる!
| あぴ | 2005/09/30 12:13 AM |

なんつーか、メンバー同士でコメントしあうのって、ちと寂しいね。
| まん | 2005/10/02 9:38 AM |










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